Rust async move における「lifetime may not live long enough」エラーの原因と対処法

こんにちは、案件推進チームのT.Fです!

現在関わっているプロジェクトでプログラミング言語にRustを採用してるのですが、Rust固有の仕様や癖が多くなかなか苦労しております。 今回は、実際に私がハマったエラーを紹介します。


「lifetime may not live long enough」とは?

Rustで非同期コードを記述する際、 「error[E0597]: lifetime may not live long enough(ライフタイムが十分に長くありません)」というエラーに悩んだことはありませんか? 特にRust初心者にとって、ライフタイムは理解の障壁となりやすい概念です。

このエラーは、多くの場合、async moveブロック内で「借用された値」を使うことによって『Futureのライフタイムが'staticを満たせなくなる』ことが原因で発生します。

本記事では、このライフタイムエラーがなぜ発生するのかを掘り下げ、具体的なコード例とともに効果的な対処法を解説します。


どのようなコードでエラーが発生するのか?

まず、問題となる典型的なコードパターンを見てみましょう。

// 例: コネクションプールからコネクションを取得し、非同期処理を実行する想定
struct MyService {
    connection: ConnectionPool, // コネクションプール
    secret: String,             // 秘密の文字列
    cipher: Cipher,             // 暗号化器
}

impl MyService {
    pub async fn process_data(&self, key: &Key) -> Result<(), MyError> {
        self.connection.acquire(|conn| Box::pin(async move {
            // 問題点: `&self.secret` は `self` からの借用であり、
            // `Future`が`'static`を要求する際に、そのライフタイムが不十分となる可能性があります。
            let encrypted_key = encrypt(&self.secret, &self.cipher)?; // ←ここが原因
            // ... ここで `conn` を使ってDB操作などを行う ...
            Ok(())
        }))
        .await
    }
}

// encrypt等の定義は省略
fn encrypt(data: &str, cipher: &Cipher) -> Result<String, MyError> {
    Ok(format!("encrypted_{}", data))
}

struct ConnectionPool;
impl ConnectionPool {
    async fn acquire<F, T>(&self, callback: F) -> Result<T, MyError>
    where
        for<'c> F: FnOnce(
            &'c mut Conn,
        ) -> Pin<Box<dyn Future<Output = Result<T, MyError>> + Send + 'c>>,
    {
        let mut conn = Conn;
        callback(&mut conn).await
    }

    async fn acquire_conn(&self) -> Result<Conn, MyError> {
        Ok(Conn)
    }
}

struct Conn;
struct Key;
impl Key {
    fn pan(&self) -> String { "some_pan".to_string() }
}
#[derive(Clone)]
struct Cipher;

#[derive(Debug)]
struct MyError;
impl From<std::io::Error> for MyError {
    fn from(_: std::io::Error) -> Self { MyError }
}
impl From<String> for MyError {
    fn from(_: String) -> Self { MyError }
}

このコードを実行しようとすると、「lifetime may not live long enough」というコンパイルエラーに直面します。


なぜコンパイルできない? async moveと'staticライフタイム

Rustのasync move { ... }ブロックは、実行されるべき処理を内包するFutureを返します。 moveキーワードを用いると、そのブロック内で参照されている変数や所有権がFutureの内部へ「ムーブ」されます。

問題は、async moveブロック内で&selfのような「借用された値」がキャプチャされる場合です。 &selfはselfオブジェクトが生存している期間のみ有効な参照ですが、Futureはスコープを超えて実行される可能性があるため、コンパイラはFuture内の値がプログラムの実行期間全体('staticライフタイム)でも有効であることを要求します。

しかし、&self'staticを満たせません。そのため、Futureが&selfをキャプチャすると、コンパイラは「lifetime may not live long enough」エラーを出力します。


acquire関数の実態に見るライフタイムの要求

pub async fn acquire<'a, F, T>(&self, callback: F) -> Result<T, InfraError>
where
    for<'c> F: FnOnce(
        &'c mut Conn,
    ) -> Pin<Box<dyn Future<Output = Result<T, InfraError>> + Send + 'c>>,

ここで注目すべきは、for<'c>構文です。 これは「任意のライフタイム'cに対して」という意味で、クロージャが受け取る&'c mut Connと返すFutureが同じライフタイム'cに紐づいていることを示します。

async moveブロック内で&selfをキャプチャすると、そのFutureは&selfのライフタイムにも依存するため、コンパイラはライフタイムの不整合を指摘し、エラーとなります。


ライフタイムエラーの回避策

1. NG例:借用したままasync moveに渡す

async move {
    encrypt(&key.pan(), &self.cipher)?; // `&self.cipher`が問題
}

この例では、&self.cipherのようにselfからの借用がasync moveブロック内で直接使われているため、Futureのライフタイムが'staticを満たせず、エラーとなります。


2. OK例:所有権をムーブしてからasync moveに渡す

async moveブロックに入る前に、selfから必要なデータを事前に取得し、所有権を持つ値として扱いましょう。

let pan = key.pan().to_string();       // Stringとして所有
let cipher = self.cipher.clone();      // Cloneして所有権を得る
let this = self.clone();               // Arc<Self>などで所有権を得る

self.connection.acquire(move |conn| Box::pin(async move {
    let encrypted_key = encrypt(&pan, &cipher)?;
    this.find_by_id(conn, encrypted_key).await
}))
  • pancipherはこのasync moveブロックの所有物なので、Futureのライフタイム問題が起きません。
  • thisも(Arcなどで)所有権を持っているため、借用問題が発生しません。

補足
self.clone()の部分は、selfがArc<Self>のような参照カウンタ型である場合に有効です。
そうでない場合は必要なフィールドだけをクローンするなど、ケースに応じて工夫しましょう。


3. 最も安全な方法:手順を分解して記述する

最も確実な方法は、非同期処理の実行順序を分解し、ライフタイムの問題が発生するコンテキストから借用を排除することです。

// 1. まずコネクションを確保
let mut conn = self.connection.acquire_conn().await?;

// 2. self.secretから必要な値を所有権のある値として取得
let encrypted_key = encrypt(&self.secret)?;

// 3. connとencrypted_keyを使って処理
let result = self.find_by_id(&mut conn, encrypted_key).await?;

このように手順を分解することで、async moveブロック内で外部の借用をキャプチャする必要がなくなり、Futureが'staticライフタイムを要求する問題自体を回避できます。


参考文献


本記事がRustのasync moveにおけるライフタイムエラーの理解を深め、「ライフタイム地獄」からの脱出の一助となれば幸いです。